編集者になることは私の幼い頃からの夢だった。田舎で育った私の娯楽は、漫画や小説を読み空想にふけること、雑誌を読んで原宿を想像すること、くらいしかなかった。大人になったらそれを発信する側になりたい!と漠然と思っていた。
しかし大学に入って、大手出版社の編集者は、募集人数が少なく、かなりの狭き門であることを知る。インターンシップなど実施しているところの方が珍しく、大学のOBもごくわずか。その事実を知った時、戦う前から負けが確定している戦士のような気分になった。
出版社だけを志すのはあまりにもリスキーだと感じ、視野を広げることにした。インターンは、銀行員から新聞社の技術職、地方局ディレクターまで様々なところを駆け巡った。どれも楽しく魅力的ではあったのだが、どこか「熱が入らない」。この「熱量」が、後の就職活動に多大なる悪影響を与えることになる。
現実に直面した集英社の1次面接敗退
2月にインターンに行ったIT系の会社から内定をもらった私は、浮かれていた。さらに先陣を切って行われた集英社の書類選考、筆記試験が通過していたため、胡坐をかきながら3月に突入した。
しかし、集英社の1次面接で現実に直面することになる。「なぜ漫画の編集者になりたいのか」という、最も問われるであろう質問に、うまく答えることができなかった。エントリーシート(ES)でいくら調子のいい御託を並べても、実際の編集者を前にしながら、彼らを納得させられるような答えは思い浮かばなかった。
また、「君の話を聞いていると、漫画より雑誌とか週刊誌っぽいけど」と言われ、自己分析不足を痛感させられた。調子にのらずに、「自己分析→希望職種→志望理由」の関係性を深めるべきだった。不安に満ちた1次面接を終えた後、久しぶりに友人とご飯を食べに行った。その友人は(準)キー局の内定を既に3つほど持っていて、追い打ちをかけるように情けない気持ちになった。
友人が本気でテレビ局員になりたくて、大学の1年生の頃からずっと頑張っていたのを知っていた。私は「マスコミとか、生半可な気持ちで受けても時間の無駄なのだろう」と諦めに入っていた。もちろん、集英社は1次面接で敗退してしまった。
一般企業の最終面接に落ちまくる日々
就職活動へのやる気と自信を失いかけたが、「まだ3月だ。諦めるのは早いだろう」と気を取り直し、多種多様な企業に応募した。大量採用の通信事業やシンクタンクも受験し、なんとか最終面接まで辿り着くことができた。しかし、どれも最終面接で落ちてしまった。
私には、「絶対にこの会社に入りたい」という熱意がなかったのだ。だから緊張も何もないので、2次面接などでは「落ち着いてていいね」という反応がもらえるのだが、最終面接となると、勿論、面接官の目も厳しくなる。(インターンやアルバイトの経歴をみられ)「本当はマスコミ系に行きたいんじゃないの?」と問われることも多かった。「行きたいけど、そんな簡単に行けるものじゃないし…」という私の表情が読み取れたのだろう。悉く落とされた。
「最終面接まで残る学生の質はほとんど変わらない。だからこそ志望度の低そうな、熱意のない学生が落ちるのは当然のこと」とゼミの教授に叱られた。ごもっともである。
そんな崖っぷちの最中、たまたま出版社で働いているOGとコンタクトがとれた。忙しい仕事の合間を縫って、就活の面倒をみてくれるという。
崖っぷちの中、マスコミ一本に絞る
原稿を持って颯爽と登場する彼女の姿はとても華麗にみえた。「今まで自分が好きだった漫画や雑誌を読み返してみて、何が好きだったのか、面白かったのか、もう一度考え直してみて。それが面倒に思えるなら潔く諦めなよ」と言われた。
家に帰ってすぐに、本棚で眠っていた本たちを読み返した。娯楽的な本を読むのは久しぶりで、童心に返り読みあさった。そして出版社への就活を、再度本気で志そうと決意した。出版社の選考に集中するため、日程が被りそうな一般企業は勿論、通信社など他のマスコミの選考も辞退した。
潔く選考辞退をしまくったが、崖っぷちな状態なのは変わらない。むしろより崖の先端に立たされている。
背水の陣で、出版社の筆記試験や面接に取り組んでいて気づいたことがあった。「熱意」が薄いのが私の欠点だったが、マスコミほど「熱意」を見られる企業はない、ということだ。
プレジデント社の2次面接で「志望動機を教えてください」と言われた時、私は何故か20秒くらいフリーズしてしまったことがある。その日はかなりの猛暑日で、更に走って会場まで向かったからか、意識がぼーっとしていた。すぐに「申し訳ございません」と謝り、何とかその場で志望動機を述べたが、ESに書いたことも全て忘れてしまった。
しかし、ぎくしゃくしながらも「御社の説明会で感動したこと」を懸命に話した結果、通過していたこともある。テレビ東京の面接でも「OB訪問したことある?」という質問に対し「ないです、でも観覧にはかなり通ってます」という無茶苦茶な返答をしたこともあったが通過していた。
マスコミは「私服で結構です」というスタイルな面接が多く、礼儀やマナーも勿論大事だが、本当に「熱意」があるのかどうかを重視する会社が多いように感じた。
KADOKAWA、日経BPの面接
日経BPの1次面接(面接官3:学生4)は、説明会と兼行された。説明会を踏まえた上で、「逆質問をしてください」というトリッキーな面接だった。暗唱している志望動機よりも、インタビュアーとしてすぐに質問を投げかけられるのか? ということを重視していたように感じた。2次面接(面接官3:学生1)では、小論文と面接が兼行された。小論文は「活字メディアの未来」のようなテーマが出題され、面接では、新規事業をやるならどんなことがしたいか? 専門書系とライフスタイル系、どちらをやりたいか? ということを問われた。入社後の明確なビジョンを求められているように感じた。
KADOKAWAの1次面接(面接官1:学生3)は「自分の頑張ってきたことと『ありがとう』と言われた経験」だった。内容や経験よりも、「ある程度の長さのエピソードをいかに人に聞いてもらえるよう話を工夫できるか」というところに焦点を当てられていたように思う。
2次面接(面接官1:学生1)は、「自分の好きなもの」についてのプレゼン。プレゼン用紙A41枚の準備が必要となる。これは、プレゼン力も勿論だが、テーマ選びが重要だったように感じる。私は、「好きな作品とその作家について」プレゼンをしたのだが、たまたま面接官も同じ作家が好きなようで、話が盛り上がった。
盛り上がりつつも「じゃあ、この作家と反対のポジションにいる作家は誰だと思う?」といった鋭い質問がいくつかあった。同じ時間帯に面接を受け仲良くなった学生は、あまりにもニッチなテーマを選び過ぎて面接官から質問が飛んでこなかったと嘆いていたので、ある程度の普遍性は求められるだろう。
3次面接(面接官2:学生1)は、「KADOKAWAの新規事業」のプレゼン。こちらもプレゼン用紙A41枚の準備が必要となる。とにかく、友人や教授、コンテンツ業界で働いている人など幅広い人の意見が重要だ。たくさんの人に見てもらい、ブラッシュアップすることが通過への一番の近道だと思う。
最終面接(面接官9:学生5)は、合計たった15〜20分(一人当たりの時間は5分もない)で終わってしまうので、ほぼ顔合わせのようなものだった。面接官はそれぞれ分厚い資料を見ていたので、ES〜3次面接までの評価が重要になってくるのだろう。
講談社の面接は「人物重視」と感じた
講談社の1次面接(面接官2:学生1)は、現場の編集者が面接官だった。どれぐらい本気で出版社を志しているのか? という筋の質問が多かった。例えば「好きなコラムニストは誰か?」と問われたり、1次面接だからといって「これから勉強頑張ります」が通じるような簡単なものではなかった。
2次面接(面接官3:学生1)は、編集長クラスが面接官になっていた。出版業界の知識というよりも、考え方を重視して見られていた。例えば「○○というアイドルが好き」と言うと「どうして○○は売れたと思う?」と、思考回路を探っているような質問が多く、日常的な考え方に焦点があてられていた。
3次面接(面接官5:学生1)は、この時点で3000人→70人程に絞られているだけあって、一人当たりたっぷり30分くらいの時間がかけられた。講談社の面接は、1次から全て個人面接で行われているので、本当に「人物重視」を徹底している企業だと感じた。
テレビでも新聞でも出版でも、扱う題材は星の数ほどあるので、全ての質問に詳細に答えたり、事件を網羅することは無理だと思う。私は暇な時間ができたら、とにかく国立国会図書館に通っていた。
読んだことのないアニメ雑誌から一昔前のベストセラーなど、様々なジャンルに目を通すことに努力していた。面接官に知識で勝てる訳はないので、色んな「ひっかかり」を自分の中に留めて会話のきっかけにしようとしていた。国会図書館は、就活生にとって天国のような資料館なので、是非活用してほしい。
崖っぷちから就活をリスタートした結果、出版社数社から内定を頂くことができた。ここまで読んでもらった方には伝わると思うが、私は全くもって優秀ではないし、不器用な人間だと思う。今でも、出版社にチャレンジせず、一般企業だけを受け続けていたらどうなっていたかと考えると背筋が凍る。
就職活動中、私のように尻込みし、彷徨ってしまう人もいるかもしれない。特に面接という不透明な試験を受け続けていると、何が正解なのか分からなくなって自分の指針を失いがちだ。その時は一度立ち止まって自分自身と向き合い、今後の人生設計をどうしたいのか? じっくり問うて、考え直してほしい。納得のいくまで自分自身で考えたことならば、自然と後悔の残る選択肢は消えていくはずだから。